経営基盤の具体的なシステムとは
■組織を迷う事なく行動させる『集団統一の原則』
種々様々な組織の特徴は『価値観が似ている人』が集まっている。
しかし会社組織は価値観・育った環境・年代・性別等の違う人達が集まる。
故に、統一させる為に『何か明確な意図を企てない』と組織として機能しない。
その明確な意図が『集団統一の原則』である。
価値観の違う人達が集まり、『人間動物園をつくるのが会社』である。
だから何もしなければ、『上手く回らない事』を前提に会社運営を考えた方がよい。
【図表.集団統一の原則の7要素】
この集団統一の原則は七つの要素がある。1番目は経営理念、2番目は中期ビジョン、3番目は構造形成戦略、4番目は方針、5番目は商材戦略、6番目は戦術、7番目は戦闘である。この七つの要素をキチンと創る事により、組織が迷うことなく行動出来、考え方、行動の価値判断基準をよく理解できる集団へと変身・成長させる。
組織を統一させるとは、集団の行動を右に行けと言えば、皆が右に行く事であり、組織に迷いが無くなる事である。この迷いが無くなる事は組織において大事な事である。『我が社のビジョンはこうである』、『今期の方針はこうである』と社長が口酸っぱくして言わなくても理解できる集団に成長するからだ。そうすると違う部分に労力がシフト出来、組織としての成果は上がりやすくなる。
【図表.集団統一の原則の内容と経営の仕組】
■経営理念
日本における経営理念を重視した『使命感経営』の第一人者は松下電器産業創業者の松下幸之助氏である。松下幸之助氏は事業経営の一番根本になるのは、『自社が何の為に存在しているのか』、『この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行っていくのか』、という点について、しっかりした『正しい経営理念』を持つ事が重要と説明している。
会社の存在理由・経営目的・経営方法についての『正しい経営理念』が根底にあってこそ、事業経営において大事な技術力・販売力・資金力・そして人がはじめて真に生かされてくるものだと確信していた。
経営理念は木の根っこである。
木の根がしっかりしていないと木は成長しない。仮に大きな木の幹・葉をつけていても根っこが腐り始めると雪印のような不祥事に発展する。元々、雪印は戦後の日本を見て、北海道の酪農家達が『自分達が搾り出すこの栄養価の高い牛乳を日本に広めなければならない』と高尚な理念の基に立ち上げた会社である。しかし企業規模の拡大と年月によってその価値判断基準が薄らいでいった結果の残念な不祥事である。如何に経営理念が立派でも実際の経営をデタラメにやると目に見える部分の成果は上がらない。正しい経営理念を持つと同時にそれに基づく具体的な方針・商材戦略・戦術・戦闘が環境に適合していないといけない。
今、明確なる主張がない会社は生き残れない。市場規模の割に法人の数が多い。だから法人が選ばれてしまう。選ばれるとは、お客様が選ぶ。お客様に選ばれる為には、『わが社の考え方はこうです』、『サービスはこうです』と主張しなければならない。
私達中小企業は密着型で商売をしている。わが社の主張に共鳴してくれる人がお客様であればいい。それでも沢山いる。これが差別化である。
経営理念は大別すると『会社の存在価値・意義についての考え方の基準』となる経営理念・使命感と『トップから一般社員の行動を指示する行動の価値判断基準』の行動指針である。この2種類で経営理念を構築すると実践的である。
経営理念は組織を統一させる為の源である。
【図表.経営理念と行動の指針体系の事例】
■中期ビジョン
会社の未来に息吹を入れる事がビジョンである。
中期ビジョンは3年後、5年後、10年後にどのような会社、お店を創りたいかを考える事。今、40歳の方が10年経つと確実に50歳になるし、50歳の方は60歳になる。10年後、自分はどういう生活をしていきたいのか、どういう人生を歩みたいのかを考える事である。
会社の未来に息吹を入れるとは、会社に夢を持たせる事で、社長、役員、幹部が息吹を入れるのである。
社員にすれば会社の成長と共に個人のビジョンが融合する事(一致でなない)を描ける人は、働き人からすると一番幸せなタイプになる。
『明確なる意志を持たないと道は開けない』と古今東西、成功した方が言われる共通した薫陶である。自分の会社にとっての道は一体何なのか、その息吹を入れる事が中期ビジョンである。
【図表.中期経営計画書の骨格】
会社の中に夢が出てこないと、活気が出ない。出てくる会社は伸びる。社長が夢を語るのは当たり前。役員・部門長がメンバーに『うちの会社の夢はこうなんだよ』と語れる会社は絶対伸びる。何故なら、メンバーは本気だと思うからだ。
その為には社長が照れずにビジョンを語り続ける事である。ビジョンを話す経営者の顔には生気が宿る。その宿った生気が社員に伝わり、社員を動かすのである。
■構造形成戦略
構造形成戦略とは『我が社の最適な場所』を発見する事である。
最適な場所とは1番運営しやすい・利益を出しやすい『規模』、『方法』を見つける事である。
経営は環境適応業で、環境はドラステイックに変化している。今は『経営慣習を全面否定する事』が大切である。従来からの経営慣習で経営者が無意識に行っている経営諸施策は沢山ある。例えば、利益出ず資金繰りが厳しい状態での借入れによる賞与支給(運転資金含あるが)である。右肩上がりの経済下におけるシステムであり、環境変化の現在、経営が継続して栄える為には従来の慣習を見直す時にきている。
自社の経営にとって無意識の慣習を見直し、最適な場所を発見し、構造を形成する戦略を構築しなければ経営技術の差で他社との競争に敗れてしまう事になる。
経営の慣習を一回『オールノー』で見つめ直す事である。人間は習慣の動物。知らず知らずにやっている行為に対して問題意識を持てなくなる。
この経営構造形成戦略は五つから構成される。
1番目は人・組織戦略、2番目は物戦略、3番目は経営技術の戦略、4番目は資金戦略、5番目はリスク対応戦略である。
【図表.構造形成戦略】
構造形成戦略は我が社の最適な場所、最も運営がしやすい経営の規模・方法を探求していく事である。経営の運営方法を『経営者ご自身の性格に合った、会社の体質に合った、自分の業種に合った』最適な場所を見つける事である。その為に経営の慣習をオールノーで見つめ直す事が大事になる。
■方針
方針とはレールである。
目的地に目的通りに行く為には、電車と車なら、電車の方が確率は高い。それは何故か?電車にはレールがあるからだ。車は幾ら自分が気を付けてもぶつけられるし、渋滞があれば目的通りには行けない。
会社の方針とは『今年1年間どのような方向性を持って戦うか』を全社員が迷わないようにレール敷く事である。これを形に現したのが経営計画書である。この方針は目に見えないものである。だから方針とは、まるで生き物であるかの様に丁寧に水をやり、陽の光を当てなければすぐ枯れる。方針が真に“方針”と為るのは、根づかせ、そして血を通わせるからだ。血を通わせるとは『社員に対して常にそのことを訴え続け、浸透させること』である。
【図表.経営計画書の骨格】
方針のある計画とは、喜びを醸し出すものであり、成長を助成するものであるが故、それをつくることは経営者の最大の仕事となる。
方針の位置づけは統一の原則の4番目に位置する。①将来に対する方向性と②今年の業績づくりに対する扇の要である。方針が無ければ将来と今年単年度を結ぶ機能が無い事になる。そうすると社員は迷ってしまう。経営運営上、『骨格の腰の部分』に当り、最重要である。
【図表.部門計画書事例】
■商材戦略
商材戦略とは数値計画の根拠づくりで、差額対策である。
商材とは『商いの材料』であり、差額商材を創る戦略である。
売上が去年8億で、今年は9億にしたい。この1億足りない部分を見つけるのが商材である。それを売上でカバーするのか、粗利でカバーするのか、それともコストを下げる事によってカバーするのか、回転でカバーするのか、色々なカバーの仕方がある。どうしても商いの材料は売りに関係するテーマのみと思われがちだが、そうではない。
会社の中に『商材という言葉』がある会社は、差額を埋めようとする発想がある。業績の概念は、会社によって違う。ある会社は売上で押え、ある会社は営業利益で押さえたりと様々である。我が社の経営部門の業績、営業部門の業績は何かを決めなければならない。例えば、経営部門の業績は経常収支で資金の帳尻を合わせる事、営業部門は粗利で帳尻を合わせる事等、色々な業績項目がある。
いずれにしても、商いの材料をどのように創るかが、商材の戦略である。
経営計画書で、去年は8億で今年は9億やりたい。それはそれでよいが、その差額を埋める根拠となる商いの材料がなかったら、9億を達成するわけがない。
だから経営計画書を作る時に誤解されるのは、『経営計画書をつくれば業績が上がる』と思われる方がいるが、作るだけでは業績は絶対に上がらない。差額を埋める商いの材料を入れて、初めて達成出来る条件が出来る事になる。
つまり、商材戦略は数値計画の根拠づくりで、差額対策である。
この商材戦略は先行管理という手法を活用していく。先行管理とは時間を先取りする技術。
業績好調な部門長の特徴は『売上高は今日現在幾ら、月末までに幾ら』と即答できる。それに『今の状態ならば来月は幾ら、再来月は幾ら』とも即答する。常に時間軸を意識して、業績を考えているからである。業績を上げているセールスマンは当月に、当月・翌月・翌々月と先の事に対し、手を打っており、時間を先取りする習慣を身に付けている。これを会社全体でやっているか、いないかで業績に差が出てくる。
違う視点で観ると、色々な会社があり、各社色々な商材を取り扱っている。しかし、自社でしか取り扱う事が出来ない商材は現実的にはない。同業他社が取り扱う商材は自社でも取り扱うし、自社で取り扱う商材も当然、同業他社でも取り扱う。すなわち商材についての差はあるようでない。しかし、同じ商材を取り扱う同業他社でも業績に差が出るのは業績を上げるための準備期間の先取りの差である。
【図表.3か月先行管理の構造】
【図表.3か月先行管理の構造】
■戦術
戦術は人を動かす方策であり、決め事をキチンとやらせる事。成果を上げるためにやるべきことを準備し、どのように人を動かすかを決めていくのが戦術の役割。そのポイントはやり方を決め、できるようにすることです。決め事をキチンとやらせるのは、リーダーの役割です。その前提となるのが、やるべき事の決定事項をつくることです。いくら会議・ミーテイングで検討しても『誰が、なにを、いつまでに、どのような方法で』やるのかが決まらなければ、明日から行動に移せません。いくら目標を決めても、方針を示しても、差額対策を検討しても、明日から動く決定事項がなければ、前進はしないのです。戦術の仕組みには、決定事項を管理していくシステムが必要となります。この部分に着目していない会社・チームは多いと思います。
決め事とは人を動かす第一歩です。チームで今月やらなければならない決め事を全員が共通認識として持つ事です。決め事を守らせる為には決めっ放しの防止をするキメ細かいチェックシステムの構築が必要で、全メンバーがその進み具合がわかるようにするのがポイントです。ここを疎かにすると、真面目にやるより、やらなくても何も言われないので『チームにやらない風土』が蔓延します。
決め事とは『誰が、何を、どのような方法で、目標はいくらで、いつまでにやるか』を決める事である。この決め事を発生させる種類は①業績に関係するもの②経営方針に関係するもの③基本動作に関するもの④会社のルールに関するものに大別される。そして、その決め事を決める機会は①会議②ミーテイング③上長からの指示命令である。
【図表.決定事項管理の例】
そしてもう一つのポイントが現在の仕事は難易度が向上しており、やるべき事が決まってもその実践策をやった事がない、できない等の現象が増えています。いくらよい対策を考えても現場で実践できなれば、意味がありません。その為に現場でのOJTが重要となります。戦術がないチームの特徴は、具体的行動に移れないチーム。目標達成に向けてのやるべき姿はあるが、明日から何をすればいいのかの具体的行動に移れなく、頑張っているが頑張り方が違うチームとなります。
【戦術マネジメントポイント】
- 業績対策で今月にやるべき事を明確にする
- 誰が・何を・いつまでに・どのような方法でやるのか、また、その達成基準を決める
- やるべき事のやり方を知らない、出来ないメンバーに対し、方法を教える
- 誰もができるように仕事の標準化と教育を行う
- チームメンバー全員で決定事項のチェックとコントロール機能を発揮させる。
組織は人が動かす。人が組織を動かしやすくする為には、やるべき事をパターン化する事である。やるべき事のパターンを決めないから、習慣化出来ないのです。
■戦術
戦闘は役割分担による日常業務・具体策の実践である。
つまり、『一般の基本動作、会社・部門固有の基本動作、会社のルール、そして業績づくりの決め事』を決めた通りに行う事である。
これは社長を含め、全社員が努力して実践する事である。
幾ら素晴らしい商材戦略を考えても、管理体制を強化しても、最終的には戦闘である実践がなければ、成果は出ない。
戦闘は決定事項の実践機能です。1か月間のやるべき事が具体的に決定事項として決まります。それに従い、全員が役割分担に基づき、決め事を決まったようにやる事が実践。ここで重要となるのが、行動管理です。戦術機能で自分が取組むべき最優先業務を考え、判断し、スケジュール化する事です。
戦闘とは実践力です。目標を達成させるために、日々の仕事に対し、やらざるを得ない仕掛けをつくり、やらせていく方法です。決まった内容を決まったようにやらせていくというのが戦闘です。チームリーダーを含め、全社員が努力して実践する事です。チームリーダーはしつこく、細かく現場業務を指導していくことです。しつこくとは、メンバーにやるべきことをやらせていくことです。細かくとは、メンバーの行動予定を押さえることです。現場指導には色々ありますが、最終的にどこを押さえればいいかというと、メンバーの行動予定です。いくらやるべき事が明確でやり方がわかっていても、それが行動予定になければ実践できません。このポイントをきちんと押さえることが本当の意味で人を動かす事になります。
【戦闘マネジメントポイント】
- 決定事項を最優先業務としてメンバーの行動予定に組ませる
- チームとしてやるべき事をメンバーに共有させる
- 確認事項等が発生したら、随時にミーティングを行い、対策を立てる
- 決定事項の進捗状況を随時、メンバーから報告させる事
- 指示命令に対する報告・連絡を励行させる。
全員で決め事を決まったようにやる事です。具体的な計画を作成する段階で決め事は決めます。その決め事に基づく実践です。チームリーダーの仕事は、決め事をキチンとやらせていく事が最大の仕事となります。その為には、メンバーが協力して、決め事を守る風土を創る事が大事になります。