既存衰退病

既存の商品を既存の方法で、既存のマーケットに提供するだけでは、売上高は確実に減少し、
粗利益率は下がり、利益が出なくなります。

●トヨタから車がなくなったらどうなるのか?
●日本製鉄から鉄がなくなったらどうなるのか?

2003年、富士フィルム古森社長は、幹部に対して強烈な危機感を意識させ、新しい成長事業の育成に舵を切った。これが「既存衰退病からの最大の脱出劇」と称される富士フィルムの2年がかりの事業構造転換の始まり。

看板事業の売上高比率が54%から1%未満へ

富士フィルムは、1996年頃から本格的普及が始まったデジタルカメラの影響で、写真フィルムの需要は世界的規模で2000年をピークに年率10%超のペースで下落し、同社の写真フィルム売上高も毎年200億円のペースで減少し、2011年度の関連事業の売上高は全体の1%未満となる状況での事業構造転換の話。

■勝てる固有技術

技術の棚卸により化粧品事業への参入が決まった時に、ある確信があった。
それは『先発メーカーがいる市場に最後発で割り込むためには、当然オンリーワンを投入しなければ成功しない。ベストワンでは失敗する』との考えである。

そこで着目したのが当社のコラーゲン製造する固有技術。人の皮膚の約70%を構成する「コラーゲン」は、写真フィルムの主成分であり、この応用で開発したのが、ヘビーユーザーが多いスキンケア化粧品のアスタリフトの開発。同社OBは成功のポイントは次の3つと振返る。

●最初の「やれそうか」は技術的裏付け
●次の「やるべきか」は業界トップになれるかの検証
●最後の「やりたいか」は会社の思いの強さ

■技術力残存者企業

企業戦略のターニングポイントが加速度的に進んでいきます。
成熟社会、マーケット縮小、既存衰退病、構造変化、技術革新等の変化により、
素材・材料の変化、生産方法の変化、サプライチェーンの変化、オペレーションの変化が進み、
それに伴い消費者(個人・法人)行動の価値観が変化しております。

結果として、現在成長している企業はマーケット(企業・顧客)が要求してくる
幅広い技術の変化・向上に対応できる技術力対応企業に仕事や利益が集まる構造になってきています。

■固有技術

創業し、10年以上経過している企業には、必ず固有技術がある。あるから10年操業できている。
その固有技術の視点は、ものを生産するための技術、サービスを生み出すための技術、
個々の分野での特有の技術、自社製品・サービスの中核となる技術です。

企業の戦略の組み方は、弱みを克服する戦いより、強みを磨いていく戦い方が基本となります。
マイナスをゼロベースにする戦いより、強みを伸ばす戦いの方が成果は出しやすい。

その戦い方のキーポイントとなる武器が固有技術です。どこにもない・出来ない固有技術や他社にもあるが、
我が社がずば抜けている・優れている固有技術を見つける事は、戦略構築の大切の方法です。

中小企業にはコア技術を見つけて、それを磨きあげて戦略展開をしていく発想が、あまりありません。
大袈裟になりますが、色々な企業でも出来るモノを提供していく基本価値を売りにする企業よりも、基本価値に自社にしか出来ない価値をマーケット(消費者・法人)に付加提供できる企業が求められています。

その付加価値のつくり方が自社の固有技術力を背景とする内容です。この内容は、数年前から説明をしておりますが、2019年よりその流れが加速度的に、革新的に変化しており、成長企業の要因になっています。

単純な言い方ですと、『現在の高い技術力(広い意味)が求められる仕事を引き受けるだけの技術力が自社にあるのか?』という事です。これに対応できる企業に仕事が集まっている状況です。会社の成長とは,『人の増加ではなく、仕事の増加』によるものです。難易度の高い仕事に対応する技術力が企業成長の要諦になっています。

■顧客の不を解消する固有技術

固有技術なくして固定客なし、固定客なくして販売なし、販売なくして経営なし。固有技術があるから同業他社と違うサービスが出来、その固有技術の数が多いほど、決算書に記載されない会社・部門固有の見えない資産がノウハウとしてストックされる。付加価値の高い会社はそれを活かす土俵を見つけ出し、その土俵に見合う製品化・商品化にチャレンジする事に長けている。

■専門技術を固有技術に

東北にある肥料販売会社の事例。東北地方のある米作の盛んな地域で、農家の方々に肥料を販売している会社。この会社は単に肥料を販売するだけではJAに負けるので、米をつくる専門のプロ集団をつくろうと考えました。米作農家の大半は兼業農家で、昼間は地元の会社に働き、農作業をやるのは土日になる。逆転の発想で観ると月曜日から金曜日までは米作を放り離し状態にしている。この会社のポイントは、月曜日から金曜日にお客さんの田をずっと見て歩いていき、お客さんの田の番人をやっている。そして、『田中さんのこの田んぼは何月何日にこの肥料を幾らまかないといけませんよ』と具体的なアドバイスをしている。このアドバイスが出来るのは、社員も自ら米を作る農業を営んでおり、冬季には米作りの最新技術を大学に学びにも行っている。米をつくる技術に関しては専門的なノウハウを持っており、その上で自分の田の状況を押えてくれるから安心である。このような背景もあり、お客様から米の番人さんとして信頼関係を構築している。このレベルになるとこの会社しか出来ない固有技術になる。今、この会社がチャレンジしているのは、お客さんの中でもいい米をつくる農家と直接契約をし、米を買い付けて、首都圏で販売している。どこの会社にも必ず固有技術はある。それを見つめ直し、どういう展開ができるかを最確認する事が大切。

■労働集約型から脱皮したサンプルのない会社づくり事例

新成長企業に共通するキーワードは他がやらない事をやっている事。競合がないことは強い。競合企業があると、そのやり方を模倣され、結局コストダウンをして利益を出す構図になってしまうので、大きい利益が取れなくなる。産廃業を営んでいるA社は、創業50年以上の歴史を持つ社員数20名弱の会社である。創業当時は炉施設・設備解体を中心に事業展開を図っていた。技術の固有性が高く、炉設備・施設に付帯する業務に固定客が付いていた。そして現社長は、前社長からバトンを受けたとき、炉解体から出るレンガの産廃業に進出した。 このレンガは産業廃棄物で、有害物質が基準値を超えて含まれているため政令で「特別管理産業廃物」として指定されている。この収集・運搬許可を取得するのは大変難しいが、この会社はその許可を全国66カ所の都道府県・政令指定都市で取得している。つまり、固定客の要望に対応できるように、全国規模で収集・運搬許可を取得しているのである。 収集運搬は小商圏で効率化を上げる事が原則である。しかしその逆をとり、専門性を求められるニッチ分野で広範囲な営業エリアで勝負している。そして中国に国内の炉工場が移転すると察知し、都市ごみ焼却炉のビジネスへと進出し、大きな柱と成長している。現在、A社は、産業廃棄物の処理ノウハウを提案する環境コンサルティング業にも事業を拡大している。この会社の歴史を見ると、現社長になり、3~5年で常に新しいことにチャレンジしている。つまり立ち上げたビジネスが軌道に乗り始めたら、すぐに次の展開への準備に入るのである。だから、競争相手がいない土俵で勝負ができるのだ。 このようなサンプルのない会社に共通しているのは、顧客が求めるであろう知識・技術・情報・ノウハウを先読みし、構築し、組み合わせている点である。今後予測される産業構造の変化は、私たちが経験していないことが多く発生する。だから過去の経験のみでは、間違いなく対応できなくなる。 先を読んで明日の種をつくらなければ、レッドカードが渡され、「退場」を言い渡されてしまう。